「10人いれば10種類の建物ができる」
――叩き上げ社長が語る、現場監督という仕事の本質
明治5年――1872年に材木商として産声を上げ、2026年7月に創業154周年を迎える増木工業株式会社。埼玉県新座市を拠点に、保育園、共同住宅、アパートメントホテル、公共施設まで幅広い建築工事を手がける地場ゼネコンである。
元請け比率は100%。公共工事に偏重していた体制から民間工事の比率を引き上げる戦略を進め、大型案件を年に複数件抱える規模へと成長した。利益率は同規模の地場ゼネコンのなかでも高い水準にある。その堅実な財務体質があるからこそ、協力会社への手厚い対応ができる。支払いは手形を使わず、現金・短いサイトで行う。支払いが早ければ職人も安心して動ける。工事は協力会社の力あってこそ――その考えが、現場を支える関係づくりにつながっている。
2022年のホールディングス化を機に代表取締役に就任したのは、電気工事の職人出身で、入社以来30年以上を現場畑で歩んできた叩き上げの技術者。創業家から経営を引き継いだ、初の社外出身社長でもある。
その増木工業が今、次の成長に向けて現場を担う技術者を求めている。地域からの信頼は厚く、東京都内からの引き合いも絶えない。だが、品質を守りながらその期待に応えるには、現場を任せられる人材が必要だ。叩き上げの社長が語る、その採用哲学と経営の考え方を紐解く。
「一緒に働かないか」と、社員が仲間を誘える会社
―― 直近の中途採用で入社された方の中で、特に印象的な活躍をされている事例を教えていただけますか。
中途で入って、いまでは当社で稼ぎ頭になっている技術者がいます。新座市内に住んでいて、もともとは都内の会社に勤めていました。地元で働きたいという気持ちがあったのかもしれません。
その人がある時、「前の会社にいた先輩が、辞めたいと言っている」と声をかけてくれたんです。話を聞いて、その先輩にあたる方にも来ていただくことになりました。この方も新座市内に住んでいて、すぐに話がまとまりました。
二人とも、もう15年以上勤めてくれています。今では、どちらも現場を支える中心です。
―― ご縁がつながっていったのですね。他にも選択肢がある中で、なぜ貴社だったのでしょうか。
決め手が何だったかは、実は本人に聞いたことがないんです。地元の仕事が多い、というのはあったかもしれません。
ただ、一つ言えるのは――自分が働いている会社を、前職の仲間を呼びたくなる場所だと思ってくれていた。それが一番うれしいことかもしれませんね。条件をあれこれ並べて誘うのではなく、「ここで一緒にやらないか」と言える。そういう会社でありたいと思っています。
そして、なぜ彼らが活躍できたのか。一つ挙げるなら、うちのやり方に、ちゃんと合わせていただけたということです。
私が統括として見ていた時には、ある程度口を出さずに仕事を任せました。もちろん検査の時にはダメなものはダメだと言いましたし、私は元々叩き上げなので、社内検査で当社の品質基準を満たさないものは「壊してやり直そう」と平気で言っていました。
そういうやり方に対して、ちゃんと理解をしていただけた。増木工業のやり方が合っていたかどうかは別として、理解していただけたというのが一番大きいんじゃないでしょうか。
「増木に任せておけば大丈夫」―― 地域の信頼が、次の現場を担う人を求めている
―― 貴社は今、現場を担う人材の採用に力を入れておられます。その背景を教えてください。
明治の頃から、この新座で仕事をさせていただいてきました。地域の中で「増木に任せておけば大丈夫だ」と言っていただける関係を、一つひとつの現場で積み上げてきたつもりです。
ありがたいことに、今は埼玉だけでなく、東京都内からも声をかけていただくようになりました。引き合いは途切れません。
ただ、私たちは売上を上げるために無理に仕事を取るということはしないんです。お客様から信頼して任せていただく以上、その信頼は現場できちんと品質を出すことでしか守れません。だから、こなせる以上の仕事を抱えることはしない。
そうやって品質を守りながら、いただく期待に応えていくには、現場を任せられる人間が要るんです。今いる人間だけでは、せっかくの引き合いすべてには応えきれない。だから、採用なんです。
―― 今、現場を一人で任せられる方はどのくらいいらっしゃいますか。
所長として一人で現場を任せている人間が7~8名。それに加えて、取締役の本部長二人も現場に出ています。現場に出ていない取締役は、私と営業本部長だけです。
少なく見積もっても、現場代理人として一人で任せられる人間が、あと3人は欲しい。この3人が入ってくれれば、地域からいただいている期待にもっと応えられるし、会社としても次の段階に進めると思っています。
―― 若手の育成も、同時に進めておられるのでしょうか。
そうなんです。若手にも、いつまでも自分が前に出るわけにはいきませんから、何かしら現場代理人をやらせてあげないと育っていきません。今年から初めて監理技術者として現場を持ち始めた人間もいます。
ただ、いきなり大規模な現場は任せられないでしょう。小から中規模ぐらいの物件も手がけながら、一人ずつ現場を任せて育てていく。そうやって次の世代をつくっていくためにも、人が要るんです。
「利益が出ているからこそ、できることがある」―― 創業154年が築いた、経営基盤

地域の期待に応えるために人を採る。その姿勢を支えているのが、増木工業の経営基盤そのものだ。同社の利益率は、同規模の地場ゼネコンと比べても相対的に高い水準にある。この安定した収益力は偶然の産物ではなく、社長が就任時に掲げた受注構造の転換に根がある。
―― 社長に就任された際、経営の面で最初に目標とされたことは何でしたか。
公共工事と民間工事の比率を、半々にすることでした。
それまでは、下手をすると9対1、8対2で公共工事のほうが多かったんです。公共工事は安定しているように見えますが、頼りきりだと社員に書類作成等の業務負荷がかかりますし、そもそもずっと発注される保証がない。入札の競争も年々厳しくなってきています。
だから、民間である程度継続的にいただける仕事を受注していったほうがいい。5対5、6対4ぐらいを目指してやってきて、今、だんだんその数字に近づいてきました。
―― その転換が、利益率にも表れているのでしょうか。
工事量自体も増えていますが、毎年波はあります。ただ、昔と比べて、利益率の良い工事を選別できるようになったというのは大きいと思います。
民間工事のほうが、うちの会社に合った仕事を受注できるんです。うちの営業は、人と人とのつながりで仕事の話を持ってきますから、価格競争で取ってくるわけではない。お客様とちゃんと話をして、「増木がそこまで言うんだったら」と見込んでいただける関係がある。
官庁の物件では、営業力がどんなに強くても値段を合わせることはできません。そういう部分の差が、数字に出ているのかもしれません。
「上場企業にも引けを取らない」―― 利益を、働く人に還す
増木工業は、安定した利益を働く人に還元している。その手厚さは、中途入社者が一様に驚くほどだ。
―― 中途で入社された方が、特に驚かれる制度はありますか。
福利厚生ですね。「こんな手当があるんですか」と、みんな驚きます。たとえば――
• 京都研修(入社5年目まで):自己負担1〜1.5万円。事前に「借景について調べる」といった課題が出る一泊二日の研修旅行
• 自主企画旅行:勤務年数×5,000円を補助。海外に行った社員も
• 熱中症アラート手当:発令日は1日1,500円。夏場は相当な額に
• 遠距離通勤手当:通勤80分以上で月額支給
• 寮:新卒は月1万円。資格取得補助・学費半額助成(大学に通った社員も)
• 家族との食事代補助:2ヶ月に1回、ノー残業で家族と食事に行く費用を会社が補助
―― それだけの制度を維持し続けるのは、簡単ではないと思います。
正直、利益が出ていない時期もやっていました。赤字の時もあったんです。
ただ、ちゃんと利益を出しているからこそ続けられる、というのはあります。利益が社員の働きやすさに回って、働きやすいから会社にも返ってくる。その循環が、回り始めています。
「10人いれば、10種類の建物ができる」―― 任せて、育てる
制度で報いるだけではない。増木工業が社員に渡しているもう一つのものが、現場を任せる裁量そのものだ。
―― 中途採用で活躍される方と、残念ながら続かなかった方。その違いはどこにあるとお考えですか。
現場監督って、どこの会社でもそうかもしれませんが、一人ひとり自分の流儀を持っているんですよ。自分の色というのが、絶対にある。
同じ設計図で同じ建物を作れと言っても、10人いれば10種類の建物ができる。私はそういう感覚でいるんです。こだわりや段取りは人それぞれで、みんなが同じ手順でやることはありえない。大筋は一緒でも、絶対に違いが出ます。
ただ、そこで、うちの会社の色というか、譲れないものをちゃんと理解していただけるかどうか。そこは非常に大事です。私も職人上がりなので、昔は社内検査にも行って、いろんな指摘をしながら「この会社はこういうやり方なんだな」と理解していってもらう。そうやって残ってくれた人間が、今、所長を張ってくれています。
―― その「うちのやり方」というのは、技術的に特殊な手法があるということですか。
いえ、基本的にはオーソドックスな現場管理だと思いますよ。特殊なのは、手法ではなく、任せ方かもしれません。
現場の所長は、一国一城の主です。ある程度のところを管理して、あとは自由にさせてあげれば、実力のある人間は自分のやりやすいように仕事をこなしてくれる。逆に、管理しすぎると、伸びしろもなくなるし、良いところまで消してしまうんです。
今のメンバーは、本当に信用しています。信用しているということを、言葉ではなく態度で示してあげれば、それに応えてくれる。
―― 「任せる」というのは、具体的にはどこまでですか。他社では細かい経費にも上の承認が要ると聞きます。
聞く話だと、箒を買うのにもお伺いを立てなきゃいけないとか、現場でお茶を買うのも承認がいるとか。面倒だから全部自腹だ、なんて話も聞きます。うちは、そういうことはまずない。
私の感覚では、実行予算が手元に来て、私がハンコを押した時点で、もう私の責任なんです。その予算の範囲で赤字さえ出さなければ、現場の中の判断は任せる。お小遣いのやりくりと一緒で、借金をせず利益をちゃんと出してくれれば、問題はない。
協力会社の選定も同じです。私が「ここを使え」と指定したことは、社長になってから多分一度もない。前職で付き合いのあった協力会社を連れてきたいという人がいても、全然かまいません。競争に勝っていただければ、どこを使うかは問わない。今までの縁を切って、うちに来る必要はないんです。
「繰り返しの中で、人は育つ」―― 共同住宅という学びの場
任せて育てる。その考えは、日々の現場にも息づいている。
―― 若手が伸びる現場に、共通点はありますか。
共同住宅、RCの建物ですね。鉄筋を組んで、型枠を組んで、コンクリートを打って、1階が終わる。すると2階も同じ手順を踏む。一つの現場で、同じ工程を繰り返し経験できる。基本中の基本が、共同住宅には詰まっているんです。私自身も30年ほど前、この辺りで共同住宅を手がけて、ずいぶん鍛えられました。
若手には、「先輩に聞くのも大事だが、職人さんに話を聞くことはもっと大事だ」とも言っています。その道については、上司より職人さんのほうが絶対に仕事を知っている。だから、仲良くなりなさい、と。叩き上げで、電気工事の職人もやっていた。その経験が、今の考えに影響しているのかもしれません。
若手にいきなり大規模の現場は任せられませんが、建設本部長の下で経験を積みながら、一人ずつ育てていく。そうやって、次の世代をつくっていくんです。
「人参をぶら下げるようなことは、したくない」―― 7代目社長からのメッセージ
―― 最後に、これから面接に来られる方へ、メッセージをお願いします。
他社と迷っている方に対して、私にできることは、一つしかないと思っています。自分自身の人間力を、見てもらうしかない。
給与や福利厚生といった条件は、正直、口で説明してもなかなか伝わりにくいものです。資料を見て「いい会社ですね」とは言っていただけますが、本当の働きやすさや居心地の良さは、中に入ってみて初めてわかる。数字だけでは測れない部分に、うちの良さがあると思っています。
だからこそ、面接では、人間を見てもらうしかない。話し方、話す内容、どれだけ誠実に向き合えるか。人参をぶら下げて釣るようなことは、したくないんです。
もう一つ。私は技術屋上がりの、いわゆる7代目です。6代目まではずっと創業家がやってきて、私が初めての、創業家以外から出た社長なんです。
だから、夢はあると思うんですよ。今いる社員にも言っていますが、私は後継者を育てなければいけない。今いる社員の中からも探すし、育てる。そこには、これから他社から入ってくる方も含まれます。叩き上げでこの椅子まで来た人間がいる会社だということは、後から入る人にとっても、一つの希望になるはずです。
あとは私を見ていただいて、誠実に向き合うだけ。そう思っています。
インタビュー
加藤 純一
代表取締役
高校卒業後、電気工事の職人として現場に立つ。1991年、22歳で前身の増田木材に入社し、以来30年以上を現場監督として歩む。工事部長・取締役を経て、2022年のホールディングス化を機に代表取締役に就任。創業家から経営を引き継いだ初の社外出身社長。
会社情報
増木工業株式会社
採用情報
【安全業務の経験を活かす】創業154年の安定企業で現場の安全を守る「安全課」兼現場監督補助職
普通自動車免許(AT限定可)を活かせる!マンション・公共施設の新築・改修工事の営業職
【営業・現場のサポート】創業154年・老舗ゼネコンを支える営業事務・建築事務職
【1級施工管理技士・一級建築士を活かす】創業154年・大規模RC/S造案件の建築施工管理職(現場代理人)
【普通自動車免許を活かす】創業154年・官公庁物件も手掛ける老舗企業の建築施工管理(現場代理人補佐)職
【購買の実務経験を活かす】創業154年・官公庁物件も手掛ける老舗企業の購買職
【積算実務経験を活かす】創業154年・官公庁物件も手掛ける老舗企業の積算職
【監修】株式会社アンドパッド
シェアNo.1 クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」の開発・提供を行う。施工管理、経営管理、受発注など建設現場と経営をつなぐクラウドサービスを展開するほか、建設業界特化型求人・転職サービス「ビルダーワーク」を運営。本メディア「企業の設計図」では、企業の「ビジョン」と「採用」を紐解き、求人票だけでは見えてこない社風や本音、採用ロジックを発信しています。