前職は介護、接客、IT。その経験が、ここでは必要とされる。
──異業種出身者が会社を成長させる、改修会社の設計図
1959年の創業以来、東京都武蔵野市を拠点に改修工事を手がけてきた東京住宅サービス株式会社。三鷹、武蔵野、小金井の各エリアと、板橋の営業所を中心に、約6,000戸におよぶ団地の修繕を担っている。
この仕事は、退去や不具合に応じて現場が絶えず発生する。一件あたりの規模は決して大きくないが、途切れることがない。元請比率は100%。間に立つ会社を挟まず、発注者と直接向き合う。
そして、現場社員の平均年齢は業界水準を大きく下回る。その多くが、建設業とはまったく無縁の場所から入社してきた人たちだ。それでいて、1級建築施工管理技士の合格率は全国平均を大きく上回る。
社長を務めるのは、大学で経済学を学び、新卒で入ったコンサルティング会社で官公庁や金融機関のシステムに携わってきた人物。建設の現場を歩いてきたわけではない。
長年培った技術を礎に成長局面にあるいま、この会社は未経験の若手を主軸に据え続けている。その理由と、経営の考え方を紐解く。
「全くの異業種からの転職」——建設業界未経験者が、現場を担うまで
――転職を考えている人が「この会社に入ったら、自分は何年後にどうなっているのか」を具体的にイメージできるような、実際に活躍されている方のお話から伺えますか。
直近では、大規模修繕の現場で今回お客様から優秀工事 表彰を頂いた社員がいます。まだ20代後半で、入社してから3年ほどしか経っていません。
もともとはプロを目指してスポーツの道を歩んでいて、レッスンコーチなどを経験した後に弊社に来たという、全くの異業種からの転職でした。建設の知識はゼロからのスタートです。それが3年ほどで、大規模修繕の現場で高い評価を受けるところまで来ている。
弊社には本当にいろいろな経歴の人間がいます。IT、介護、接客。その中でも、スポーツを本気でやってきた人は多いですね。どうしても外を回る仕事ですし、体力面は必要になってきます。あとは負けず嫌いな人が多いので、資格の勉強にも集中して頑張ってくれる方が多い。そういう意味では、活躍しやすい環境なのかもしれません。
――未経験の方が2~3年で表彰されるというのは、正直かなり早いという印象を受けます。とはいえ、入社してすぐ何でもできるわけではないと思うのですが、実際のところ、どのくらいの期間で何ができるようになっていくものなのでしょうか。
どこを一人前と見なすかによりますね。
本当にイレギュラーな対応まで全てできるようになるには、やはり5年くらいはかかるかなと思います。現場は様々です。想定外のことが起きたときに、自分で判断できるかどうか。そこまで含めると、それくらいの時間は必要になってきます。
ただ、最低限、自分の業務ができるようになるのは1~2年でしょうか。
もちろん、先輩社員がきちんとついてフォローするという前提での話です。いきなり一人にして、あとは自分で覚えてください、という進め方はしていません。
――社長ご自身も、建設業のご出身ではないと伺いました。未経験の方を採用されている会社のトップが、ご自身も異業種から来られている。これから建設業にチャレンジしようと思っている方にとっては心強い話だと思います。どういう経緯だったのでしょうか。
大学は経済学部で、会計やITの分野から来ています。新卒で入ったのはコンサルティング会社で、官公庁や銀行のシステム構築プロジェクトを担当していました。東京住宅サービスに入ったのは、新卒で入社して3年目の頃です。ただ、現場よりバックオフィス系をメインに裏方から、経営に近いところをずっと見ていたという感じですね。
現場には、長く経験を積んできたプロがすでにいました。ですから私は、その方たちの手が回りきらない部分を、組織として整えていく。そこにずっと力を注いできました。自分が現場に立つよりも、その方が会社の役に立てると思ったので。
「建設業界未経験者は、成長スピードが違う」——選べる立場になっても、変えない方針

――建設業界未経験者が、数年で現場を任される。それは偶然そういう人が集まったということではなく、会社としての方針なのでしょうか。直近では、経験者と未経験者をどのくらいの比率で採用されているのか教えてください。
はい、会社としての方針です。
今年は事務も含めて12人を採用しました。そのうち施工管理職が6名。経験者はそのうち2名程度なので、ほとんどが未経験からの入社です。
小規模修繕も大規模修繕も、基本的には若手をどんどん育てていく。そこは一貫しています。
――未経験の方を採用する会社の中には、「経験者を採りたいけれど難しい」という事情を抱えているケースもあると思います。貴社の場合はいかがですか。
今でこそ、経験者の方からも多くご応募をいただきます。ありがたいことに、資格を持って実績もある方の応募も増えています。
それでも、未経験の若手を中心に育てていく方針は変えていません。
もちろん入社した時点でできることの多さは、経験者の方が圧倒的です。そこは疑いようがありません。ただ、未経験から入ってきた人は先入観なく自社のやり方を覚えてくれるので、成長スピードが早く気づくと経験者の方に追いついていたりします。
――未経験の人がそこまで伸びる環境というのは、具体的にどういう構造になっているのでしょうか。
一番大きいのは、現場の数だと思います。
弊社は団地を6,000戸ほど、小規模修繕で管理しています。退去率が年十数%程度だとしても年間数百件程度の現場が発生します。もちろん、1年で引っ越される部屋もあれば、10年20年と住まわれる部屋もあるので、ボリュームは年によって変わります。それでも、常にそれだけの数の現場が動いている。
若手の未経験者が場数を踏むという意味で、この構造は大きいと思っています。
――現場の数が多いというのは、裏を返せば、それだけ多くの現場を若手に任せているということでもあります。未経験の方に任せることへの不安はありませんか。
そこは、任せ方に段階を設けています。
長く管理してきた物件ですので、マニュアルとまではいきませんが、ノウハウが会社に蓄積されています。手順を踏んでいけば一定のレベルまで到達できる。教える側にとっても、教わる側にとっても、進めやすい環境だと思います。
その上で、まずは先輩社員と同行して、一緒に仕事を覚えるところから始めます。次に、業務全体の中の特定のエリアを任せる。そうやって少しずつ範囲を広げながら、独り立ちしていくという流れです。
最初から一人で全部を抱えることには、まずなりません。
「カリキュラムではなく、風土や雰囲気」——教わった人が、教える側に回る
――現場の数、整備された手順、段階を踏んだ任せ方。ここまで伺ってきた環境は揃っていますが、それだけで人が育つとも思えません。未経験者の採用に踏み切っても、育てきれずに終わる会社は少なくない。貴社では、何がその差を生んでいるのでしょうか。
ここに至るまでには、当然、紆余曲折がありました。最初からうまくいっていたわけではありません。
ただ今は、先輩社員自身も未経験で入社してきています。そこが大きいと思っています。
年齢の近い先輩が後輩につく。その先輩も、かつては同じところでつまずいてきているので、後輩が今どこで詰まっているのか、いつ声をかけるべきなのかを掴みやすい。お互いにフォローしようという雰囲気が、自然に出来上がっているように感じます。
制度としてメンター制度があるわけではありません。先輩社員と一緒に行動して仕事を覚える。その流れの中で、関係性が自然に築かれていく。それが今のかたちです。
――もう一つ、貴社で驚くのが資格取得の実績です。1級建築施工管理技士は、学科で落ちる方も多い難関資格です。貴社は全国平均を大きく上回る合格率だと伺いました。未経験で入った方が、そこまで到達している。何か特別な仕組みがあるのでしょうか。
みんな、本当によく頑張ってくれている。それが一番だと思います。
会社としても当然、支援はしています。資格取得のスクールについては、費用を全額会社が負担しています。1級ですと決して安い金額ではないのですが、そこは惜しみません。
ただ、お金を出せば受かる、という単純な話ではないんです。どうすれば合格の確率が上がるのか、そこは会社としていろいろと試してきた蓄積があります。先輩たちの受験ノウハウを社内に蓄積して、後から受ける人間が参考に見られるようにしています。ただ、それを見れば受かるかというと、やはりそれなりの努力が必要ですね。
――支援制度としては手厚いと思いますが、それでも合格率の高さは制度だけでは説明できない気がします。
そう思います。カリキュラムというより、風土や雰囲気のところが大きい気がしますね。
勉強の仕方を教えたり、環境を整えたりはできる。でも最終的には、本人のやる気がないと勉強しないし、受からない。
その点、弊社では若手同士で切磋琢磨して合格を目指そうという空気が本当に強い。そういう雰囲気を作れるかどうかが、実は一番重要なのかもしれません。
弊社はスポーツをやってきた人間も多いので、文章を書くことにあまり馴染みのないまま入ってくる人もいます。1級の二次試験は記述式なので、正直、そこで苦戦することもある。それでもしっかり指導を受けて形にして、なんとか合格していく。そんな環境になっています。
――お話を伺っていると、非常に完成度の高い育成の仕組みに見えます。これは最初から設計されたものだったのでしょうか。
いえ、まったく違います。
昔は求人を出しても応募数も少なく、経験者が採用できなかったために、未経験の方を育てるところから始めました。当時は、この選択しかできませんでした。
そこから育った人間が先輩になり、次の未経験者を教えるようになる。そのくり返しで、いつのまにか、それが弊社の一番の強みになっていた。そういう感覚ですね。
「こちらが持っていない発想を持っている」——教わる側で、終わらない
――育つ環境があるという話を伺ってきましたが、学ぶにも資格を取るにも、時間が必要です。建設業は、その時間が最も削られやすい業界でもあります。貴社はそこにどう向き合っているのでしょうか。
官公庁の仕事においては、書類の量は民間の案件よりどうしても多くなります。そういった業務をいかに効率化するかなどは、重要なテーマとしてます。
たとえば、一つの書類に書いた内容を、別の書類にもそっくり同じように転記しなければならない。そういう作業があるんです。以前はコピー&ペーストで手作業でやっていたものを、マクロを組んで一度で両方に出力されるようにしました。地味ですが、こういう積み重ねの改善を大切にしています。
裏方の作業が短縮されれば、その分だけ現場に向き合える。そこは意識的にやってきました。
――社長がIT出身だから、というお話に聞こえますが、実際にそうしたツールは社長がお作りになっているのですか。
いえ、現場の人間が中心となってやっています。
私が作ると、どうしても現場の仕事を理解しきれていない部分が出てくるんです。実際に使う人が作った方が、だんぜんいいものになります。
今、小規模修繕工事を担当している部長は、もともとIT企業にいた方で、社内のツールを開発してくれています。
ただ、一人に任せきりというのも違うと思っていて、他のメンバーにも広げようとしてきました。IT資格を取ってもらったりもしたのですが、実際にツール開発できるまでのハードルが高かった。それが、AIの登場で一気に変わりました。
これまではシステム開発できる人間でなければ、業務は分かっていてもシステムに落とし込めなかった。今は、業務を理解していて仕組み化する発想さえあれば、形にできてしまう。ここ数年の進化はすごいですね。
――今のお話、実はとても重要な気がしています。IT出身の方が入ってきたことで、会社の仕組みが変わっている。つまり、未経験者を採用していることが、会社にとってのメリットになっているということですよね。
まさに、そこは大きいと思います。
こちらが持っていない知識や発想を持っている。そのことが、すごく面白いんです。
今は第二新卒の方も含めて、本当にいろいろな職種から応募をいただきます。弊社にはない経験を持った人が入ってくるので、「これができる人間はいないか」となった時に、「そういえば、あの人が前職でやっていたな」と。思ってもみない角度から、活躍してくれたりします。新入社員は教わるだけの存在ではなく、会社を変えていく側でもある。そういう人が増えていくのは、私たちにとって本当にありがたいことです。
――事業の面でも、いま変化の局面にあると伺いました。官公庁のお仕事に加えて、民間にも広げていらっしゃるとか。
そうですね。
入札の案件は、日程が完全に決まっています。特に大規模修繕ですと、一つの現場が終わってから次を受注するまでに、間が空いてしまうことがある。
民間の場合は、こちらから工期の選択肢をお出しできます。この時期であればこの条件で、というご提案ができる。お客様の側で判断していただいた結果、双方にとって良い形に収まることがあります。
官庁だけでやっていると、どうしても波ができる。そこを均せるかどうかは大きいところです。
事業のポートフォリオという意味でも、どんなに良いお取引先でも一社への比率が高くなりすぎると、経営としては不安定になります。官庁と民間、どちらも伸ばしていく。そこは意識している部分です。
「若いうちに、キャリアの幅を広げてほしい」——入口で、道は決まらない

――未経験で入って、現場を覚えて、資格を取って、会社の仕組みまで変えていく。ただ、応募を検討している方からすると「自分はどの現場に配属されるのか」も気になるところだと思います。小規模と大規模、どちらに行くかはどう決まるのでしょうか。
正直なところタイミングにもよりますが、適性を見て決めています。入社してすぐ、大規模修繕のアシスタントからスタートすることも十分にあり得ます。
ただ、最初に配属された部署にずっといるわけではありません。
本人の希望を聞きながら、最初の数年間は、ジョブローテーションでいろいろなポジションを経験してもらいます。まずはキャリアの幅を広げて、その上で自分に向いている分野を見つけ、専門性を高めていってほしい。そう考えています。
「早く大規模な現場を経験したい」という方もいれば、「ワークライフバランスが取れる現場がいい」という方もいる。そこを伺いながら、行き先を決めていきます。
――入口で道が固定されない、と。
若いうちに、キャリアの幅を広げておいてほしいんです。
中堅以上になってから、ゼロの状態で新しい仕事に挑戦しようとすると、どうしてもハードルが高くなります。だからこそ、若くて柔軟な時期にいろいろな現場を経験してもらいたい。
小規模修繕も、大規模修繕も、どちらもこれから伸びていきます。片方が縮小して選択肢が狭まる、ということはありません。
――ここまでお話を伺うと、かなり門戸が広い印象を受けます。とはいえ、採用である以上、見ているポイントはあると思います。どういう方と一緒に働きたいとお考えですか。
コミュニケーションの部分は、結構重視しています。
お客様、協力会社の方、職人さん、そして実際にお住まいの居住者の方。本当にいろいろな立場の方と関わりながら進めていく仕事ですので、そこは欠かせません。
もう一つは、当事者意識をもって自分ごととして引き受けられるかどうか。
弊社は元請けとして、お客様に対して責任を持つ立場です。ですから、現場でトラブルや想定外のことが起きた時にも、まず自分が引き受けて動くことになります。誰かのせいにして収まる話ではありません。
技術は入ってから覚えられますが、そういった誠実さが、何より大事だと思います。
――逆に、貴社を選んで入社された方は、どんな理由を挙げられますか。
一番多く言われるのは、若手社員が多くて、やる気のある人間が揃っている。その中で切磋琢磨しながら、自分も成長していきたいという声ですね。
やはり皆さん成長意欲が高い。1級建築施工管理技士という国家資格を取ってキャリアアップできるという点に、強く魅力を感じてくださるようです。手に職をつけたい、という思いを持って来られる方は少なくありません。
あとは、建設業ではありますが、いわゆる体育会系の怖い雰囲気というのは、弊社にはあまりないんです。みんなフラットで話しやすい。「そこがすごく良かったので、ぜひ入りたいです」と言っていただくことが多いですね。
ありがたいことに、内定辞退はここ数年ほぼ0件です。内定をお出しした方には、基本的に全員入社していただけています。
「自分たちがやった仕事が、どんどん形になっていく」——だから、この業界へ
――異業種から転職を考える方にとっては、まず「なぜ建設業なのか」という問いがあると思います。実際に面接に来られる方は、その動機をどのように話されるのでしょうか。
もともと建設業に関心があったという方もいますし、紹介会社の方から「あなたにはこういう仕事が向いているんじゃないか」と勧められて、受けてみましたという方もいる。むしろ、後者の方が少し多いかもしれません。
その上で、この業界の魅力として大きいのは、自分のやった仕事が形になって返ってくるということだと思います。
私は前職がITでした。インフラや社内システムを扱っていると、自分の仕事の成果が目に見えるかというと、なかなかそうはいきません。数値が改善しましたという形では示せるのですが、手応えとしては掴みにくい。
建設業は違います。自分たちのやった仕事がそのまま形になって、それをお客様が長く使ってくださる。直接、喜んでいただける。そこがすごく魅力的なんじゃないかなと思っています。
――最後に、これから面接に来られる方へメッセージをお願いします。未経験で建設業に飛び込むことに、期待と同じくらい不安を感じている方も多いと思います。
官公庁のお仕事は、求められる品質基準が高く、仕様が細かく定められていて、発注者側にも専門知識をお持ちの方がいらっしゃいます。その環境で技術を磨いてきたという自負が、私たちにはありました。そこで培った技術が民間のお客様にも通用するのか、確かめてみたかった。実際に取り組んでみて、想像以上に、我々のやってきたことは間違っていなかった。官庁の案件で培ったものが、そのまま民間でも通用するんだと、はっきり分かりました。今では誰もが知るような一流企業からも、新しくお仕事をいただけるようになっています。
つまり、ここで身につける技術には、どこに行っても通用する価値があるということです。資格も含めて、身につけたものは全部、自分のものとして残ります。
いまでは案件も増え、事務所が手狭になってきたので、新社屋を建てて移転を進めています。弊社は一人1台、車を用意しているんです。現場でトラブルが起きればすぐ駆けつけて、フットワークよく動く。そのやり方を、規模が大きくなっても続けたい。だから、駐車場と資材倉庫をきちんと確保できる場所を選んでいます。
建設業の経験がないことは、弊社では何のマイナスにもなりません。むしろ、あなたが前の仕事で身につけたものが、この会社にないものであればあるほど、面白いことが起きると思っています。
ぜひ一度、会いに来てください。
インタビュー
石引 賢一
代表取締役
2009年に大学の経済学部を卒業後、コンサルティング会社でITコンサルタントとしてDX推進に従事。2011年、東京住宅サービスに入社し、現場ではなく総務・バックオフィス部門から経営に携わる。2022年6月、代表取締役に就任。
会社情報
東京住宅サービス株式会社
【監修】株式会社アンドパッド
シェアNo.1 クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」の開発・提供を行う。施工管理、経営管理、受発注など建設現場と経営をつなぐクラウドサービスを展開するほか、建設業界特化型求人・転職サービス「ビルダーワーク」を運営。本メディア「企業の設計図」では、企業の「ビジョン」と「採用」を紐解き、求人票だけでは見えてこない社風や本音、採用ロジックを発信しています。